だが今、氷室は「専務は私の下で」とはっきり言った。自分は明確なNO2、今までのお飾りのような副社長とは違うのだと、はっきりと宣言したのだ。


(うわぁ、いきなり先制パンチを繰り出した・・・。)


これまでも2人は専務と常務という明確な上下関係にあったが、何かと張り合うような態度を見せる会田に対して、氷室は自分より年長の彼をそれなりに立てるような態度で接しているなと、七瀬は思っていた。だが、それを一変させたような氷室の言葉に、七瀬はハッとしたように彼の顔を見ると、次に隣に座っている会田の秘書と顔を見合わせた。


果たして、その言葉に会田は


「お言葉ですが、副社長がひとり体制になったので、筆頭専務の私は、現状の副社長業務の一部も担うよう、社長よりご指示をいただき、既に現副社長から、秘書ともども、引継ぎをいただいています。」


顔を朱に染めながら、反論する。が


「それは存じてます。ですが、それらは今までは副社長の業務だったかもしれませんが、今回からは専務の業務になった、それだけのことです。あくまで副社長たる私の下で遂行してもらう業務の一環ということです。」


氷室は強い口調で続ける。呆気にとられる会田に構わず、氷室は話を続けるが、それは前任者から後任者への引継ぎというより、彼らの上長である副社長として、今後の指示を申し渡しているようにしか、七瀬には見えなかった。


「何かご質問はありますか?」


ほぼ独壇場となった会議の最後に、氷室は2人の新専務に水を向けたが、彼らは特にございませんと口を揃えるだけだった。


「それでは、明日から改めてよろしくお願いします。」


そう言って、彼が会議の終了を宣すると、2人の新専務は軽く頭を下げて、すごすごといった風情で立ち去って行った。それを見送った七瀬は


「よろしかったのですか?」


氷室に尋ねていた。


「何が?」


「随分と厳しいこともおっしゃってましたから・・・。」


「何か問題があるか?俺はあの2人の上長だぜ。」


「それはそうですが、今日は引継ぎの席でしたし・・・。」


「営業部時代には、年上の部下にも遠慮せずに、ビシビシ言っていた七瀬とは思えないことを言うじゃないか。」


「専務・・・。」


揶揄うような氷室の言葉に、七瀬は困ったような表情になる。