誕生会はなくなったが、それでも2人は幼なじみとして、お互いの誕生日におめでとうLINEを送り合うことだけは続けて来た。


そして今年。誕生日会を久しぶりにやらせて欲しいと、大和からLINEが入った時、七瀬は二つ返事だった。どこにしようかという話になって、バイキングにしようと衆議一決するのにも、大した時間は必要なかった。


高校2年のあの夏の日から、七瀬と大和はそれまでがウソのように、一緒の時間を過ごすことはなくなった。でもそれは、17年間紡いできた幼なじみとして時間が全く無になってしまうことと同義ではなかったのだと、七瀬は今更ながら気が付いていた。


先日のドライブがあり、その後も連絡を取り合っていたこともあるにしても、今の七瀬と大和は、驚くくらい自然に、かつての仲良し幼なじみの空気感の中にいた。


確かに年齢を重ね、話の中に仕事のことが混じるようにはなったが、それでも他愛のないことを喋り、笑い、遠慮なく食べて、呑んだ。


そして
「あんなことがあったよね。」
「あれを覚えてるか?」


そんなことを話しているうちに、瞬く間に、制限時間の120分は過ぎて行った。


「大和、今日は本当にありがとう。ごちそうさまでした。」


会計を済ませて、出て来た大和に、七瀬はそう言って頭を下げた。


「とんでもないございません。でも食ったなぁ、自分でもびっくりするくらい。」


「だって、何食べてもおいしかったもん。」


笑顔で話しながら、2人は駅に向かう。そして、右と左に別れる際


「大和、じゃ気をつけてね。」


「ああ、七瀬も気をつけて。送って行けなくてごめんな。」


「大丈夫。大和は電車の時間があるんだから、気にしないで。おやすみなさい。」


そう言って、歩き出そうとした七瀬を


「七瀬。」


大和は呼び止める。


「また・・・誘ってもいいか?」


なぜか遠慮がちに聞いてきた大和に


「もちろん。」


七瀬は大きく頷いた。


「七瀬・・・ありがとう。」


その言葉にホッとしたような笑顔を浮かべた大和は、軽く手を上げると、そのまま歩き出して行った。


(大和だって、辛いんだよね・・・。その辛さを忘れる為に、私を必要としてくれてるんなら、こんなに嬉しいことはない。)


七瀬は率直に思う。


(だから、このチャンスは絶対逃さない。会社のみなさんになんか妙に期待されちゃってるけど、私には大和しかいないし、第一、専務にその気がないんだから、仕方ないんだよ。)


大和の後ろ姿を見送りながら、七瀬はそんなことを考えていた。