竜基side

石丸志摩から急に連絡がきた。
多分、おふくろが志摩の母親と仲が良くそれ経由で俺の連絡先を聞いたんだろう。

オーストラリア留学から戻って来てすぐに連絡をしてきて会うつもりは無いと伝えたが、自分勝手で我儘なところは昔、家庭教師をしていた頃から全く変わっていなくて、しつこい位連絡をしてくる。


亜由美にうっかり手を出してしまいそうになった時は、志摩からの着信で踏みとどまることが出来たが、焦りすぎてベランダについ出てしまうという失態を犯してしまった。
さらに個人情報もあったもんじゃないが部屋まで調べてオートロックも何故かすり抜けてドアの所まで来たのははっきり言って驚いたし気分が悪い。
チェーンをつけたまま対応して帰らせたが、それからは会社や店に来るようになって辟易したがおふくろの手前あまり強く出られず、その都度いなしていたが、帰宅した時に亜由美じゃなくて志摩がリビングのソファでくつろいでいたのには怒りを通り越して呆れてしまう。

「俺はハッキリと断った筈だが、どうして勝手に上がり込んでいるんだ?不法侵入という言葉は知っているだろ」

「だって、ちゃんと会ってくれないから。この間だってせっかく会いに行っても話を聞いてくれないし。わたしが竜基のことをどれほど好きか知ってるでしょ」

何と言うか、昔から話が噛み合わない、昔は若いから感性が違うからかと思ったが、確か26歳だろ、一度は社会人になったらしいから社会経験はある筈だしここまで意思の疎通がうまくいかない相手はそうそういない。

「なんで俺に執着する?そもそも昔、勉強を教えたくらいしか接点はないだろ」

「あの時からずっと好きだった。でも、竜基には恋人がいて全然別れてくれないから竜基を忘れるために2年前にオーストラリアに行ったのに、誰と付き合ってもやっぱり竜基が好きでどうしても忘れられなかったの。ママから竜基ママがお見合い相手を探してるって聞いたから立候補したの」

「それはハッキリ断った。俺には恋人がいるからもう諦めてくれ。今回の不法侵入は警察には通報しないが君のご両親には報告する」

「やめて」と言う志摩の背中を押して部屋から出すとドアを閉めた。

その後、亜由美に連絡がつかず翌日アパートに行ってみると憔悴した姿で出てきたが、俺の話を聞こうとしてくれない。
ただ、その姿が拗ねているように見えて手がかかりそうだがやはり可愛いとも思ってしまう。