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朝、目を覚ますとセドリック様が傍に居て、寝息をたてている姿に口元が緩んだ。
すっかり雨も止んでカーテンの隙間から眩しい日差しが差し込んでいた。
セドリック様を起こさないように、ベッドから出ようと動こうとした瞬間、体が動かない。身動ぎしてもびくともしない。しかしセドリック様の両腕は枕を抱きしめているので彼の腕ではない。──布団の中を見ると、尻尾が私の腹部に巻き付いていた。
(あ、うん。これは……抜け出せそうにない)
「ん~、オリビア」
幸せそうに寝言を呟くセドリック様に、ドキドキと胸の鼓動が煩い。
(こ、これは……もしかして病気? 動悸息切れ……何か、命に係わる)
「命に係わるかもしれません。ちなみに病名は《恋煩い》というらしいですよ」
「え」
さっきまで眠っていたはずのセドリック様は、どこか意地悪そうな笑顔でこちらを見ている。
コイワズライ。聞いただけで恐ろしそうな病名だ。
「そ、それはどんな恐ろしい症状が?」
「ため息が増えて、ぼーっとするらしい。あと食欲がなくなって涙もろくなるとか」
ぐう、とタイミングよくお腹が鳴った。
もう恥ずかしさで顔が熱くなる。
「……逆に食欲が増してしまうこともあるとか」
「な、治す方法は……あるのですか?」
「うん。……私にいっぱい愛されること、ですかね。やっぱり、ここは敬称なしで呼ぶところから始めてみては?」
なんだか昨日から同じことを催促されているような。
でも呼んだら、セドリック様は喜んでくれるだろうか。
「……セドリック…………」
「なんですか、オリビア」
私の髪を一房掴むと、キスを落とす。
昨日よりも、ドキドキする。
昨日よりも、セドリック様に触れたい。
どちらともなく距離が近づき、唇が触れ合う刹那。
「大変です。セドリック様!」
ノックなしに寝室に飛び込んできたのは執事のアドラ様だ。一瞬でセドリック様の笑顔が凍りつく。心なしか部屋の温度も五、六度急激に下がった。
「あ、これ死んだ?」とアドラ様と、諦めの境地に居たので慌ててセドリック様に抱き付いた。
「セドリック、酷いことは駄目です」
「はい、オリビア」
コロッと表情が和らいだ。それに私とアドラ様はホッとする。
「……それで、アドラ。何用ですか?」
「大変です。エレジア国の使節団が来ており、陛下に面会を求めています」
(エレジア国……?)
エレジア国、使節団。
その単語がどうしても恐ろしい何かの象徴に思えて、血の気が引いていく。
まるで「幸せになることを許さない」と誰かに言われているような──不安に押し潰されそうになる。上手く呼吸もできず、手に力が入らない。
「オリビア」
「!」