誰かに愛されたかった。
 真っ黒な場所で、私の傍に居る人たちはたくさんの「おべっか」は言ってくれたけれど、「愛している」と心から言ってくれる人はいなかった。
 誰かに抱きしめられた記憶はない。
 大人になって、気づいたら甘え方も頼り方も分からなくなっていて。
 誰かが頼ってくれるのが嬉しくて。
 誰かが笑ってくれるのが心地よくて。
 いいように利用されていると、どこかで分かっていても──断り切れなかった。
 でもでもだって、ばかりだったと思う。
 そうやって生きてきた私のことを、ちいさな、誰かが抱きしめてくれた。
 心から「すき」だと言ってくれた。

 あれは──誰だっただろう?
 頬を摺り寄せて、「愛している」と口にして、とっても温かくて、安心できた。
 ああ、他人の体温はこんなに温かくて、落ち着く。
 甘えるのが下手だけれど、弱音の吐き方も分からないけれど、強がらなくていい。そう言ってくれる人と、ようやく、出会えた。
 ちゃんと帰ってくるから、と誰かに言った気がする。
 帰る場所があるんだって、わかったらなんでもできそう。
 もう思い出せない、記憶が霞んで、霧散してしまうけれど、あれは──。

『────オリビア』そう、私を呼ぶのは──。