「どうして……こんな回りくどいことを?」
「だから言ったでしょう、民衆のイメージアップよ。こういった筋書きを描くことによって王家への信頼、神殿への寄付が変わってくるの。慈善活動だけじゃ神殿が裕福にならないもの」
「そんな騙すような……」
「三年、アナタだっていい夢を見たでしょう。素敵な王子の婚約者で、大事に育てられて裕福な暮らしもできたし」

「どこが」と言いたかった。
 確かに最初はクリストファ殿下や周囲も歓迎をしてくれた。けれど月日が過ぎれば罵倒し、催促し、嫌がらせがエスカレートしていった。

 むしろ地獄だった。そう言い返そうと思ったが、聖女エレノア様は私の眼の前で、見せつけるようにくるりと一回転した。白いフリルのドレスが揺れる。

「オリビア・クリフォード、この状況は全部貴女が招いたこと。貴女のせいで乙女ゲームの《愛憎の七つの大罪》のシナリオが根本から崩れたんだから!」
(シナリオ……? オトメゲーム?)
「百年前に貴女と同姓同名の魔導士が隣国を救いフィデス王国魔法学院が舞台になる──というのに転生したら隣国は滅んでいるし、攻略キャラはクリストファ殿下しかいないし、《原初の七大悪魔(七つの大罪)》のキャラも全く出てこない上に、王族のディートハルト様や隠しキャラのローレンス様の多種族国家との交流もない。私の楽しみを全部奪った魔導士と同じ名前のアナタには、シナリオ展開に必要な《悪役令嬢》のポジションを押し付けることにしたの。まあ八つ当たりね」

 この人は何を言っているのだろう。
 本来ならフィデス王国は滅ばなかった?
 コウリャクタイショウ? 
 キャラ?
 何一つ聞き慣れない言葉に頭がくらくらした。ただ分かったのは、エレノア様は私に対してずっと悪意を持って貶めていたということ。
 ただ百年前の魔導士と同じ名前というだけで、虐げられ搾取された。

「だからもう一つだけ絶望をアナタにあげるわ。本来アナタに支払われる代金だけれど、その内訳は叔父夫婦が三割。クリストファ殿下が五割。そして残りはアナタにいったん戻り、魔導ギルドの依頼額を私が着服したの。もちろん功績は魔導ギルドと私になるようにもしたわ。このドレスはそのお金で作ったのよ。ただ働き、ご苦労様ぁ♪」
「──っ」

 心の底から何かが壊れる音がした。
 この三年、私は何も知らずこの国の駒として利用されて、捨て駒にされたのだ。何も知らないから騙されて、奪われ続けた。
 つらくて、悔しいのに、もう涙は出なかった。

 フランが殺された時に私の涙は枯れてしまったのだろう。亡国の復興の道も絶たれた。いや亡国復興も叔父夫婦の戯言だったとしたら、私の目的も、生きる意味も……一緒に生きたい誰かもいない。独りぼっち。
 高笑いをするエレノア様の声がどんどん遠くなっていった。