そう執事と侍女長は深刻に呟いた。毒を封じる魔導具も作れなくはないが、《毒姫》の場合、感情の起伏によって毒の濃度が変動するため魔導具の強度を超える可能性が出てくるのだ。毒と魔導具の相性が悪いのもある。
 また災害レベルだが後宮から出ないという条件を守っているのと、自身が手を下していないため侍女を斬り捨てて暗殺の主犯という立場を否定していた。なにより「王妃暗殺など勘違いじゃ。たかが、か弱い人族を竜人族が殺すはずなかろう」と堂々とのたまったのだ。

 実際にリヴィは王妃ではない。となれば肩書は人族より竜人族の方が高い──と竜人族たちは本気で思っているようだ。竜人族は竜魔人の次に強く地位も高い。そのためプライドも高く横暴なところも多い。「竜人族として下級な人族よりも自分の娘を王妃に」と考える馬鹿どもは多いのだ。

「もうさっさと結婚してしまえばいいんじゃないか」
「それはそうだけれど、オリビアの気持ちが追い付いてからがいい」
「今更すぎる。嫌だって言っても離す気なんてないだろう」
「それは……そうだが」

 スカーレットは天使族で慈愛に満ちた心穏やかな存在らしいが、直情型で自分の大切な者を傷つける連中には一切に容赦がない。悪魔のオレなんかよりも怒らせてはいけないタイプだ。スカーレットの言葉にセドリックは少し凹んでいたが、すぐさま復活する。どちらにしても竜人族が増長しているのは見過ごせない。ということで秘密裏かつ、外堀から悪魔(ラスト)の包囲網を狭め、追い詰めつつ一気にカタをつけるつもりだった。
 そのためにもまずはリヴィの警護を増やす兼ね合いもあって、オレとスカーレットが護衛役として任命された。

 会議解散後、いくつかあった仕事を速攻で片付けて、オレとスカーレットはわざとセドリックが来るタイミングを見計らってリヴィに会いに行った。オレたちのことは当然だけれど覚えていない。
 けれど記憶がなくても人間というのは、根本というのはそう変わらないようだ。
 得体の知れない生き物だというのに、警戒もせずに頭を撫でて──。
 膝の上でゴロゴロするスカーレットなんて百年ぶりにみた。
 オレも人のことはいえないが。
 あの頃の記憶なんてないのに、あの頃に戻ったみたいに心地よかった。
 セドリックの落ち込み具合は見ていて楽しかったが。いつも独り占めしているのだから、このぐらいの意趣返しはいいだろう。