それでようやく気付く。
 ああ、オレはあの人間が好きだったんだ。
 でも、いまさらだ。
 オレはあの人間の──リヴィの記憶を食ってきた。奪ってきた。殺そうとした。
 犯した罪は変わらない。
 恨まれて、憎まれて当然だ。
 でも、愛されたい。矛盾している。
 たくさん悩んで、考えて答えを出した。
 オレが隣に居なくてもいい。生きてほしい。そしてまた抱きしめて、頭を撫でてほしい。
 その場所を維持できるのなら、なんでもしよう。

 だからオレは石化魔法を解除する対価として、リヴィの枷を全て取り除こうと決めた。
 リヴィを利用するフィデス王国の人間も、オレ以外の悪魔も許さない。
 リヴィを含めて、リヴィに関わる記憶を全て喰らいつくした。
 あの悪魔はリヴィを撒き餌にして力を増幅しようと画策していたから、それを逆手に取ってリヴィの記憶そのものを消してやった。
 真っ新になった状態でも、セドリックが傍に居るのなら大丈夫だと。

 もっとも三年ほどエレジア国に人質にされたと聞いた時は、思い切りセドリックを殴ったが。
 それから三年。魅了をまき散らす有害者の対策の為用意した特集魔導具を用意して早くリヴィに会いたかった。もうひと仕事があったので、とりあえずセドリックに釘を刺す。

「お前、次、リヴィを傷つけることがあったら、今の記憶を全部食って、オレとスカーレットで亡命するからな」
「ぐっ……、わかっている」

 オレがそんなことを言うことも、連れ去る資格もないのに。
 それでもセドリックもスカーレットもオレをいい奴だと信じている。
 本当に、馬鹿な奴ら。
 そういうことはリヴィと一緒で、お人好しすぎる。
 セドリックとしても悪魔の企てに腹が立っているのだろう。あの用意周到さと狡猾さを考えればコイツを出し抜くこともできただろう。タイミングも悪かった。
 だが次はない。
 そう次はあの悪魔(ラスト)を滅ぼす。絶対に。

 それからあっさりと《魅了女》を投獄できたとセドリックは語った。
 魅了封じの魔導具は素材集めが面倒だったが、その分効果は絶大だったそうだ。
 リヴィが眠った後、セドリックの執務室で報告会が開催される。そこに集うのは、セドリック、オレ、スカーレット、侍女長というか強欲(グラトニー)、執事だ。

「ミアだったか、あの女、オリビアの前で言い寄ってくるので、危うく殺しそうになった」
「よく耐えたな」
「うぁあ、気持ちは分かるけれど、それやったらリヴィのトラウマになるから絶対にやったらダメよ。嫌われたくないでしょう」

 そうプリプリとスカーレットはセドリックを嗜めた。
 殺した方が早い。それは同感だがその場合、大義名分が必要となる。
 グラシェ国は多種多様な種族が暮らしており、その中で稀に他種族のハーフが生まれる際に有害となりえる能力を持って生まれることもしばしばあった。

 昔は被害が出る前に処分するのが習わしだったが、「あまりにも不憫だ」ということで成人するまでに力の制御ができるか否かの選定が設けられるようになった。
 それでも制御できない者は排出される。中でも高貴な家の出であれば、なおのこと子を残すことはできないかと竜魔王への歎願したそうだ。その結果、兄王ディートハルトが後宮という表向きは側室として──収容所を作ったのが始まりだ。思えばディートハルトが王妃のクロエの負担を減らすため、悪魔に利用されやすい者たちを匿う場所でもあった。それが逆に利用されたのだから笑えない。

「《魅了女》は無自覚でいいように色欲(ラスト)に利用されていただけだろう。案の定、侍女が一人姿を消したみたいだしな」
「もう一人のリリアン姫殿下の方に転がり込んだんじゃない? あっちにも唾をかけていたようだし」
「次は毒殺関係の案件が増えますね」
「食事や茶菓子は注意をしなくては」