「三年間、お疲れ様でした。……ですが、エレジア国ではオリビアの知名度はあまり高くはなかったのですね。そのあたりは想定外でした」
(……どういう意味だ? そもそもこの女の目的が三年前からよくわからない。あの時は、なし崩しというか何となく合意したが、今考えると胡散臭すぎる。生贄としてオリビアを差し出したという風に指示してきた意図も……。何を考えている?)

 懐疑的な視線を受けて女は口元を歪めた。

「現在オリビアは未婚のまま、セドリック様と婚姻を結んでおりません」
「なっ」
「なんでもグラシェ国に向かうまでに足を怪我したとかで、数カ月は静養なさっているそうです」

 婚姻を結んでいない。
 三年経った今でもオリビアを王妃として望まない者がいるということなのだろう。それならば避難場所として我が国に連れ戻すことは可能なのでは──。
 淡い期待を持つが、ふいに竜魔王代行、セドリックの姿を思い出し、冷静になる。

(あの男に私たちがオリビアにした仕打ちを勘づかれるのは非常にまずい。それでなくともオリビアを貶めることで私や聖女エレノアを神格化してきたのだ。今更全ての功績はオリビアだと公言することはできないし、そんなことが露見すれば王太子の座を──駄目だ、駄目だ!)
「クリストファ殿下、私の雇い主であられる前王妃も貴方様と同じく、オリビアが王妃に就く事を望んでおりません」
「……また私を利用するというのか?」

 ふっと、女は口元を綻ばせた。警戒していたはずなのに、彼女の言葉が聞きたくなる。堅固な意志が簡単に砕かれてダメだと分かっていても、彼女の言葉に耳を傾けてしまう。

「……話してみろ」
「ありがとうございます。現在、クリストファ殿下が負わせた足の治療を遅らせており、婚儀の時間を稼いでいます。そこで我が雇い主がエレジア国と国交を結ぶ名目で使節団をグラシェ国に派遣するので、その時にオリビアをこの国に連れ戻せばいいのです。影武者の準備も出来ております」
「しかしオリビアはエレジア国の内情を知っている。彼女が竜魔王を頼れば、我が国は簡単に滅びるのだぞ」

 勝算がない博打に賭けるほど愚かではない。語気を荒げてしまったので、言葉を取り繕いながら相手の出方を探る。