セドリック様、ダグラス、スカーレットは一斉に心配無用と主張する。私の悩みなど一蹴するほど、眩くて力強い。
 夕闇の帰り道、家の明かりを見つけた子供のような、安心する言葉。もう一度信じてみたいと思わせる何かが、セドリック様たちから感じられた。言葉では形容しがたい──何か。

「……ありがとうございます」
「リヴィは真面目だからな。まあ、根っからのお人好しだから警戒してくれた方がいいかも」
「そうね~。リヴィはすぐ騙されちゃうもの」
「そ、そんなことは……」

 否定しようとしたらスカーレットは前足を顔に当てて「えぐえぐっ」と泣き出した。「リヴィが撫でてくれたら泣くのやめるぅ」と言い出したので、慌てて頭を撫でる。

「ほら、自分が困るのは我慢するのに、他人の涙は弱いんだから」
「う……」

 簡単に論破したスカーレットは嬉しそうに長い耳を揺らした。それを見てダグラスとセドリック様まで泣き真似をして甘える作戦を取り出した。
 ダグラスは可愛いけれど、セドリック様、大の大人が何をしているのでしょうか。

「ううっ、オリビアから抱きついて欲しいです。あとキスもしてもらえると嬉しくてあっという間に泣き止みそうです」
「……セドリック様。いくらなんでも引っかかりませんよ?」
「酷いですね」

 泣き真似かと思ったら本当に泣いていました。涙腺緩すぎません?
 唇にキスはさすがに恥ずかしいけれど、勇気を振り絞って頬にキスをする。

「……今は、これが精いっぱいです」

 前回のように首の手を回すなんてことはできない。というか恥ずかしくて死ぬ。
 ほんの少しの勇気に、セドリック様は気づいて私を力いっぱい抱きしめる。

「オリビア、嬉しいです。愛しています」
「セドリック様」
「あ~、もうフランは~」
「こいつ百年前から何も進歩してないぞ」

 賑やかな昼下がり。
 なぜだろう。まったく思い出せないのに、なんだか胸がじんわりと温かい。
 信じ切れないと凍り付いていた心が溶けていくようだった。