「どうして?」
「石化魔法を解除するにあたって必要な対価だったから」
「ダグラス、貴方は一体……」
「オレは悪魔族で《原初の七大悪魔》の一角、暴食のグラトニーだ」
「悪魔族? 原初? えっと暴食っていっぱい食べる?」
「この世界で悪魔は人間の負の感情によって産み落とされる。それゆえ悪魔族は世界に七人しか存在しない。《原初の七大悪魔》と呼ばれ、怠惰、暴食、色欲、強欲、傲慢、憤怒、嫉妬とそれぞれに代替わりして生まれ変わり続ける。オレはその一角を担っている」

 悪魔族。
 人類悪と呼ばれる存在だが、私には眼前のダグラスがそうとは思えなかった。悪意や敵意が感じられないのだ。今まで悪意と敵意が蔓延る環境に居たから、視線や雰囲気で敏感に感じ取れた。

(そういえば、エレノア様が悪魔云々とかも言っていた……ような?)
「怖いか?」
「……」
「言っておくけれど、オレは悪魔だから人の嘘はすぐに分かる。まるっとお見通しだからな」

 前足で私を指さす姿はやはり可愛らしい。眼前に居る優しい悪魔に私は心内を吐露する。

「……怖い、わ」
「…………」
「私を大切にしてくれる人が裏切るかもしれないと思うと、怖い。……でもそれよりも怖いのは私が弱くて、大切な人たちが巻き込まれて死ぬことのほうがもっと怖いわ」

 私を助けようとして殺されたフランの姿が今でも脳裏にこびりついて離れない。その場にいた誰も助けてくれなかった。それどころかクリストファ殿下は笑ったのだ。
 私の大切な友人の死を──。
 悔しかったけれど、それ以上にフランを看取ることも埋葬することもできなかった。
 フランの一部がセドリック様だったと聞いて、色んな感情がごちゃ混ぜになったけれど、あの時の死はトラウマになった。もし同じようなことが起こったら私は──。

「最強ですので、オリビアが心配することはありません」
「悪魔は不死身だから、全く問題ない」
「私は賢いし、強いからずっと一緒にいられるね」