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 その日、私は馬車で神殿の医務室へと案内された。もっとも外見で見えるところのみの治療で、折れた骨はそのままだった。

 その後、神殿で『清浄の儀』と称した水浴びを強要され、身綺麗にはなったが質素で飾り気のない麻の服に袖を通した。装飾品の一つもない。
 けれどフランを失った今、私にはどうでもよかった。
 神殿の聖女見習いたちの心ない暴言も、嫌がらせも、どこか遠くから聞こえてきて現実味がない。

(フラン……。ごめん。私と出会わなければ、あんな死に方なんてしなかったのに……)

 聖女見習いたちは私の反応が乏しかったからか、早々に飽きてどこかに行ってしまった。嫌がらせや罵倒、体罰も叔父夫婦や屋敷の使用人たちから受けることが多かった。だから慣れていると言えば変だが、感情が死んでいたと思う。

 あっという間に神殿での準備を終えた所に、修道服に身を包んだ女性が姿を見せる。私と異なり上質な絹で作られた白いドレスに身を纏い、金の刺繍をあしらったベールを被っていた。私と同世代だろう。桃色の髪に、透けるような白い肌、彼女は──エレジア国の聖女エレノア様だ。
 もし本当に竜魔王が聖女を望んだのなら、彼女が生贄の役目を担わなければならないというのに、どうして私になってしまったのだろう。

「身代わりご苦労様、ハズレくじを引いた()()鹿()()()()()()()()
「…………え」