「ええ、竜人族、魚人族、獣人族、鳥人族などの他種族は基本的にドライなのですがデレ期になる時だけ、求愛を受け入れるのです。元々人族以外の種族は弱みを見せることを極端に嫌っており、サバサバした性格が多い傾向にあるのです。そのため竜魔人族の深くて重い愛情表現に、拒絶──まではいきませんが、鬱陶しいと思うようです」
(あ、一応愛情表現が重いというのは、理解しているのね……?)
「本気で拒絶する匂いもするので、伴侶であっても基本的にドライな時期は竜魔人にとっては結構辛いのですよ」
「な……なるほど? 人族から見れば、その……分かりやすい愛情表現は嬉しいですけれど」
「オリビアにそう言ってもらえて嬉しいです。ではこれからもたくさん触れて愛を囁きますね」
「!」

 セドリック様は大喜びで私の頬にキスを落とす。ああ、恥ずかしい。言わなければよかったと思ったけれど、もう遅い。
 ぶんぶん、と尾が今までにかつてないほど狂喜乱舞している。こんなに暑苦しい愛情を注がれ続けたら──嬉しい。そう嬉しいのだ。
 二ヵ月ぐらいでたくさんの愛情を注がれて、そう思えるようになった。
 本当に私はちょろい。

(でも、本当は愛されたいって気持ちが強くある。……セドリック様に対して芽生えた感情は形に出来ていないけれど、こうやって形や態度、言葉で表現してくれるのは嬉しい)
「フフフッ。今日もオリビアは可愛らしいですね」
「せ、セドリック様っ……!」
「本当のことです」

 何気ない会話が増えた気がする。セドリック様と一緒に過ごすことが増えて、このまま傍に居たいと思う気持ちも膨らんでいく。
 一度は死を考え自分の心を固く閉ざそうとしたけれど、春のような温かさを与えてくれる環境は凍りついたものを簡単に溶かしてしまうのだと気づいた。

 長い回廊に出たものの、私たちの話し声以外は聞こえず静かなものだ。
 柔らかな風が私の頬を掠めた。
 昼下がりの穏やかな時間帯。普段ならセドリック様は政務に勤しんでいるのだが、今日は仕事を早めに切り上げてきてくれた。

 セドリック様が私を抱き上げて移動するのは、求愛行動の一種でこれはいつも通りだ。けれどそれ以外にも理由というか原因がある。昨日、リハビリも兼ねてセドリック様の執務室まで向かおうとした時に、私が階段から転落してしまったのだ。
 幸いにもセドリック様が階段の下にいたので、事なきを得た。あんな時間に階段下にいたのは、私の匂いがした気がしたからだとか。竜魔人の嗅覚が異常すぎる。

(あのときサーシャさんが車椅子を持ってくれて前を歩いていたけれど、後ろには誰もいなかったし、階段ですれ違うこともなかった……それなのに誰かに押されたような気がした)

 気のせいかもしれないけれど三年前も私をよく思わない人がいたのは事実だし、狙われる可能性はゼロじゃない。私が不安がらないように、セドリック様が傍に居ようとしてくれたのだろう。その配慮は嬉しい。セドリック様の優しさに嬉しく思う反面、いつか飽きられ、豹変し、距離を取る、あるいは道具として扱われる日が来るのかもしれない──と一抹の不安が消えなかった。


 ***


 庭園は季節の様々な花が植えられており、薔薇の拱廊(ローズ・アーケード)には白と桃色の花が咲いていた。木漏れ日が差し込み、花がとても色鮮やかで美しかった。長いアーケードを抜けると緑の苔が広がっており、広場に出た。噴水が見え、その水面が白銀色に煌めく。

 少し肌寒くなってきたが、それでも日差しの温かさがあるのでそこまで寒くはない。というか、セドリック様に抱きかかられているので、少し寒くなるようなら引っ付くだけで寒さはあっという間に消える。
 ちょっとは自分から寄り添うようになり、それがセドリック様的には堪らないのか「幸せ」とか「可愛い」という言葉が漏れてくる。本心が駄々洩れすぎているので、聞いているこっちが恥ずかしくなるのは変わらない。

「セドリック様はどうしてそんなに私を──」

「好きでいてくれるのか」そう聞こうとして、言葉を切った。
 セドリック様が足を止め、あからさまに表情を顰めたからだ。いつもニコニコと笑顔か、落ち込んで泣きそうな顔ばかりだったので、露骨に嫌そうな顔というのを初めて見た気がする。
 そこまでセドリック様を不快にしているのはなんなのだろう。そう思い視線の先を追うと、

「セドリック様。ようやくお会いできましたわ」