十分な睡眠、栄養バランスのよい食事、適度な運動(リハビリ)などを繰り返し、あまりにも贅沢な二ヵ月が過ぎた。今までの三年間が地獄だった分、天国のような暮らしで毎日目を覚ますと、ここが夢じゃないかと頬をつねったりすることが習慣になっていた。
 それぐらいセドリック様は私を大事にしてくれて、蕩けるような愛の言葉を投げかける。そして今日も──。

「オリビア、今日は庭園に行きましょう。薔薇の拱廊(ローズ・アーケード)が見頃なのですよ」
「ローズですか。楽しみです」
「それはよかった」

 セドリック様は当たり前のように私を横抱きしながら、庭園へと向かう。車椅子や松葉杖は相変わらずサーシャさんが運んでくれている。

「あ、あの……移動のたびにセドリック様に運んでもらうのは、その申し訳ないというか……」
「気にする必要はありません。私はオリビアに触れられるので幸せですし、足が完治してからも続けるつもりです」
「え」
「駄目ですか?」
(その上目遣いは反則なのですが……!)

 結果から言って断れなかった。眉目秀麗で素敵な方であると同時に甘え上手の天才で、可愛げのない私には逆立ちしてもできないだろう。セドリック様は満足そうに私に頬擦りをしてくる。これも竜魔人族の求愛行動の一つで毎日のスキンシップは重要だとか。

「こうやって毎日オリビアに触れられるなんて幸せです」
「大袈裟な気がします……」
「そんなことはないのですよ。オリビアは人族なので明確なデレ期がないでしょう」
(で、デレ期?) 
「その分、毎日求愛しても受けいれてくれていい匂いがします」

 すんすんと髪の匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので本当にやめてほしいのだけれど、セドリック様曰く拒絶しているかどうかがわかるらしい。そのため私が「駄目」と言っても最近は「本当に駄目ですか?」と仔犬のような瞳で聞き返してくる。ずるい。あざとい。でも、本気で拒絶できない自分が悔しくもあった。

「セドリック様……デレ期とは周期的に訪れるものなのですか? す、好きな人が一緒にいても周期がこないと、そのデレないのですか?」

 普通に好きな人と一緒にいるだけで甘えたいとか気持ちが芽生えるものだが、他種族では生態的に違うのだろうか。なんとも不思議なものだ。