「ふざけるな。なぜオリビアの後継者が誰もいないんだ? 私は技術を盗むために魔導ギルドに依頼を出していただろう!?」

 神殿の応接室で今後の話を神官と聖女エレノアたちで話すことになったのだが、オリビアの後釜がいないという。眩暈に襲われそうになった。

「だ、だって……後継者を付けたらオリビアの生産速度が遅くなるでしょう。だから後継者を作るよりも一つでも多く量を増やして儲けを増やそうと思ったのよ」
「三年で彼女がいなくなるというのも話していただろう。その後の事はどうするつもりだったんだ?」
「それは……私も魔力が増えてできることがあったから……大丈夫かなって。ほら、私はヒロインだし、そのぐらいのことはシナリオ修正が聞くと思って……」

 エレノアがここまで先を見通すことのできない女性だとは思わなかった。思慮深い、先を見据えた利発的な女性──どこがだ。
 最初はシナリオテンカイなどの予言めいたことを言っていたが、全ては意味をなさなかった。異世界の知識は多少役に立ったが、そもそも頭が足りていない。

(それならオリビアの方が何倍も先々のことを考えてくれた! 相談に乗れば的確なアドバイスもしてくれたのも彼女だ!)

 ふと責任感のあるオリビアのことだ、残った発注書のことを考えて何か残しているかもしれない。いそいで彼女が住んでいた屋敷に魔導ギルドの魔導士を数名呼びつけた。
 案の定、工房とは呼べない小さな部屋に回復薬やら付与魔法の手順書を残していたという。

「さすがだ。これで多少時間はかかるが取り組める」

 そういって魔導士に一カ月で注文を頼んだ。エレノアはブツブツと「シナリオが変わり過ぎている」とか「こうなったら《七つの大罪》との契約を」などと意味の分からないことをぶつぶつと呟いていた。この女は王妃の器ではないだろう。王妃教育も三日で匙を投げている。だが神殿と正面から対立するのはまずい。新たな方法を考えなければ──。
 とにもかくにも一端の問題はすべて解決する──そう信じて疑わなかった。