尻尾がぶんぶんと揺れているのが見える。こんなに直球にアプローチをかけてくるのだから、セドリック様に惹かれるのはしょうがない気がする。けれど自分の胸に芽生えた思いも、過去の──クリストファ殿下の記憶が蘇り、足踏みしてしまう。
 また裏切られることが怖い。

(セドリック様を引き合いに出すのは間違っている。……セドリック様はクリストファ殿下ではないのだから)
「オリビア。お母様が遊びに来てあげました──って、セドリック!」
「なぜ母上がここに?」
「ふふん、私の娘になるだから、女同士の交流を深めるため定期的にお茶会をしているのよ。そうよね、オリビア」
「は、はい!」

 定期的ではなくほぼ毎日なのだが。
 嫁姑のようないびりはない。むしろこれでもかというほど、気にかけてくれて優しくしてくれる。本当に謎。
 必ず私の顔色を見にやってくる義母様。セドリック様と張り合うかのように贈り物を用意してくる。そしてなぜか義母様とセドリック様が私との時間を取り合うという謎の状況。

「オリビア、正直に迷惑だと思うのなら私に言ってくださいね。どうせ母上のことだから毎日押し掛けているのでしょう」
「まあ、失礼ね。オリビアが寂しくないように来てあげているのよ、ね。オリビア」
「母上は迷惑ですよね。私との時間を取りたいでしょう。そうですよね、オリビア」

 二人の圧が凄まじい。
 どちらかに肩入れをすれば機嫌を損ねるのは必須だ。そしてその場合の拗ね方もたぶん私が予想している以上に、尾を引くだろう。そう竜魔人と妖精族のメンタルはこういうのに限って、プリンレベルなのだ。ここは二人の機嫌を損ねず、話題をすり替えて気持ちを切り替える魔法の言葉。

「お義母様、セドリック様。二人とも足の不自由な私に、ありがとうございます。その……こんなに良くしてもらって更にお願いになってしまうのですが」
「何でも言ってごらんなさい」
「何でも叶えてあげます」

 息ピッタリの親子に、胸が温かい気持ちになった。

「近場でも構いませんので、その…外でお昼を食べてみたいのですが」
「んんーーーーもぅ、しょうがないわね。可愛い娘たっての願いだから、聞いてあげましょう! ずううっと屋敷に篭っているのも体によくないもの! いい? 貴女の身体は貴女だけのものじゃないのよ」
(その言い回しだと懐妊した風に聞こえるのは気のせいでしょうか……)
「オリビアからのお願い。いいものですね。ええ、いいものです。明日の公務は無しにして行きましょう、忘れられない昼食にしてみせます」
「た、楽しみにしています」
「ええ」
「はい」

 あっという間に明日の昼食に外へ出かける話に切り替わった。
 とりあえず修羅場回避できたことでホッと胸をなでおろす。それにしても足の怪我は完治に向かっているのだが、相変わらず仰々しいほどの包帯が巻かれている。過保護すぎるものの周囲の優しさが心地よくて甘えてしまう。
 暢気にこの甘く幸せな時間を堪能していた。何も知らずに──。