セドリック様自身を心から信じられるとは言えないが、それでも信じたいと思う気持ちが芽生えてきたのは確かだ。私から贈ったものと言えば、髪紐やハンカチと小物ばかりだが、そのたびに心から喜んでくれた。髪紐ならその場で「髪を結ってほしい」と強請られる。

「オリビアに髪を梳いてもらうのも、結ってもらうのもいいですね。ああ、毎朝結ってくださったら仕事も一層頑張れる気がします」
「お、大げさです。……でも、セドリック様の役に立つのなら、私が髪を結いましょうか?」
「本当ですか? いいですよね。もう取り消しとかできませんよ」

 目をキラキラさせて私の言葉に、一喜一憂するセドリック様に惹かれている。本当に私よりも年上なのか若干疑わしい。それに竜魔王代行という立派な役職に就いているのに、忙しくないのだろうか。
 いつものようにサーシャさんとヘレンさんは、お茶の準備をいそいそと整えててくれている。その間、セドリック様は私を補充するとかで、膝の上に抱き上げられているのはもはやお約束だ。
 抱きしめられて首筋に顔を埋める行為には未だ慣れない。というかくすぐったいし、やっぱり恥ずかしい。沈黙だと余計に恥ずかしいので、私が話しかけることが増えた。

「あ、セドリック様、この間いただいたお花なのですが、押し花をいくつか作ってみました。本の状態を維持するための防腐効果もあります」
「それは助かります。私たち種族は寿命が長い分、書物が多いのですが何分紙の劣化が激しくて、書き写しなど文官が毎年苦労しているのですよ」
「紙の劣化ですか。……紙自体に工夫してみるのはどうでしょう。日差しなどの熱をカットするフィルムなどラミネートという加工をするのと、術式で本そのものを保護するのもいいかもしれません。後は薬草で虫よけなどでしょうか」
「ああ。なるほど、移す作業よりも効率がよさそうですね。オリビアの博識と柔軟な考えは参考になります。こういう感じでまた相談に乗って貰ってもよいですか?」
「え、あ……」

 仔犬のように私を見つめる眼差しに負けて、「私でよければ」という答えを返してしまう。絶対に分かってやっている気がする。でも気分は悪くない。
 叔父夫婦やクリストファ殿下のような上辺の言葉だけじゃない。目に見える形で贈って下さる物は私の好みに合わせてくれるし、一つ一つの言動は、私を大事にしてくれているのが伝わってくる。

「ありがとうございます。ああ、オリビア。愛しています」
「セドリック様っ」