彼の溢れんばかりの熱量と声音を無視できるほど、私のスルースキルは高くない。「はい」と答えるだけで、セドリック様は顔を口元が緩みっぱなしだ。やっぱり、好かれている?

「おはよう」
「おはようございます」
「今日から朝食を一緒に摂ってもいいですか?」
「しょく……じ」

 聞き間違い──ではないのだろう。
 けれどこの三年、家庭教師の夫人に食事のマナーで嗜められてきたので全くもって自信がない。王族同席の食卓で恥をかけば、百年の恋だって冷めるだろう。なにせ二年前まで叔父夫婦と食事をするたびに「テーブルマナーがなっていない」と窘められてきたのだから。

『ああ、まともに食事のマナーも分からないなんて!』
『本当に子爵家の者として恥ずかしい』

 そのたびに使用人たちも嘲笑し、叔父夫婦に同調していた。
 食事も自分で作らないと異物を混入などの陰湿な嫌がらせもあった。思い出せば胃がキリキリする。指先が震えるのを必死で抑え、

「あの……私なんかがお邪魔したら、気分を害されるのではな──」
「そんなことは断じてありません」
「でも……その……マナーがまだ完璧ではないので、遠慮したいのです」
「なら一緒に練習にお付き合いします。私も人族のマナーには疎いですし、今後オリビアには竜魔人との食事方法も学んで頂かなくてはなりませんし」

 そう言われてしまえば断る理由がなくなってしまう。私の返事を待つセドリック様は一緒に食べることを想定して尻尾を揺らしている。「わかりました」と白旗を上げる私に、彼は「では行きましょう」と車椅子から私を抱き上げた。車椅子はサーシャさんが回収している。
 彼はどこまでも嬉しそうで、どうしてこんなに好かれているのか記憶のない私はむず痒くて、向けられる好意にどう受け取っていいのか分からない。

 朝食の場には王太后様の夫、つまりはセドリック様のお義父様が石像の如くに佇んで待っていた。セドリック様の顔立ちは整っており美しささえある。お義父様は強面で顔立ちの堀が深く、体格はセドリック様よりも大きいので見上げる形で相対することになった。

「……………」
「父上、また立ったまま寝ていたのですか」
(え!? ……寝ていた?)
「む、……おお、息子よ。久しぶりだな」
「父上、三日前に会いましたよ」
「むむ、そうだったか?」

 そこでお義父様は私の存在に気付いたようで、ジロリと鋭い視線を向けた。威圧的な視線に目を逸らすのを堪える。本能的には避けたいけれど、相手はセドリック様の父親である以上、粗相は許されない。というか目を逸らした瞬間、不敬罪で極刑コースだ。本能的にセドリック様の胸板に擦り寄る形で助けを求めた。
「これがデレ期? さりげなく甘える……最高っ」とセドリック様が嬉しそうにしているのは、よくわからなかったが。