「あんな小国、息吹(ブレス)一つで滅ぼせるが──オリビアの溜飲が下がる形の報復の方がいいだろう。まあ、彼女が居なくなったあの国では大変なことになっているだろうから、存分に苦しむといい」
「おっしゃる通りかと。あの国では魔力量が乏しい土地でしたが、オリビア様の内側から溢れる魔力(マナ)によって魔法の疑似覚醒者が一時的に増えましたからね。しかし土台となる魔力を持つ方が居なくなれば当然、魔力(マナ)の枯渇により不作も続くでしょう。なによりオリビア様の回復薬や付与魔法は、その辺の魔術師では逆立ちしても真似できませんし」
(まあ、私が何かしなくても自滅するならそれはそれでいいか。むしろ早々に側室の件に集中すべきだ。その後でエレジア国と、フィデス王国の処遇を考えればいい)

 オリビアは百年前、フィデス王国随一の魔導士だった。高い魔力と技術を持っていたが家族愛に恵まれず、認めてもらおうと努力していた。最後まであの家族がオリビアの功績を認めようとはしなかったが──唯一の救いは祖父母がまともだったことだろうか。あの森の屋敷も祖父母が工面したとか。もっともオリビアをぞんざいに扱い、搾取し続けたあの国にも何らかの報復を考えていたが──そのあたりは恐らくダグラスあたりが動いているだろう。

「オリビアの叔父夫婦と名乗っていた者の行方は?」
「捜索隊が捕えて牢獄におります」
「そうか。間違っても服毒自殺させないように見張っておくように」
「承知しました」
「黒幕を吐かせるためなら死なない程度の拷問は許す」
「はい。尋問官にはそのように伝えておきます」

 そう言うとアドラは部屋から姿を消そうとして、ふと自分に視線を向ける。
 言いにくそうな顔をしつつ、口を開いた。

「陛下」
「ん?」
「まさかとは思いますが、オリビア様と一緒のベッドに潜り込むなんてしませんよね?」
「それはないが、……オリビアと離れたくない」
「陛下。王妃として迎えていない未婚の女性の寝室に一晩泊まるのは……」

 紳士あるまじき行為だと窘める。自分でも重々承知しているのだが、それでも離れることが苦痛でたまらない。羽根をもがれる以上の痛みでどうにかなりそうだ。

「……暫くはオリビアの傍に居たい。三年前のように気づいたら消えるようなことだけは阻止するための策だ」
「では添い寝はしませんね」
「と、当然だ」

 思わず声が上ずってしまい、アドラはため息を漏らした。