ローレンスは、オリビアが作った回復薬や治癒魔法の研究結果レポートを通常の倍近くの金を出して、食料や備蓄品、洋服や日用品などを送っていた。
 おそらくローレンスはオリビアのことを好いていたのだろう。竜魔人にも個人差があり、伴侶を選ぶ際、大人になると直感よりも周囲の環境や立場によって判断が鈍ることがある。一度伴侶と決めたら生涯思いは変わらない。ローレンスには悪いが、オリビアは渡さない。「ぐるる」と喉を鳴らしながらオリビアに擦り寄る。

 今思えば本当に大人気ないというか、必死だったのだと思う。オリビアから見ればただの甘えん坊だと思われていただろう。だが察しのいいローレンスは気づいたのだろう。私に柔らかく微笑み、「貴方が彼女を守るのならきっと幸せでしょう」と呟いたのだから。

「そういえばヘレンはグラシェ国で侍女に推薦、ジャクソンは料理の腕を見込まれて料理人──と上手くやっているようだ。これは預かっていた手紙」
「ありがとう。……そう、ヘレンは気遣いができるいい子だし、ジャクソンは器用だからきっと料理も繊細で相手を気遣える素敵な料理人になるわ」

 この森は空間の歪みが酷く、魔物以外にも捨てられた子供が迷い込む森らしい。フィデス王国の中でも危険ともいえる場所に住み続けられたのは、オリビアの魔法結界によるものだ。本当にオリビアは魔導士として有能で、一つの分野ではなく様々な魔法への知識が深かった。
 ローレンスは当時、オリビアにいる子供たちの心と体の傷が癒えたのち、身の振り方などの人材斡旋に協力をしていたらしい。

 グラシェ国でもオリビアの功績などは耳に入るらしく、逆に自国であるフィデス王国ではオリビアの功績は誰かが奪い利用しているようだった。オリビア自身、地位や名声に興味はないようだったが、実家から認めてもらいたい──という気持ちはあったようだ。
 それも私やダグラス、スカーレットが傍に居て一緒に暮らしていくうちに実家への思いも薄らいで──私たちのことを第一に考えるようになった。
 実家連中は何もしないで甘い汁だけ奪いとるが、私たちは違う。心からオリビアが大好きだったし、傍にいて笑ってほしいと願った。それはいつもオリビアを取り合って喧嘩をするスカーレットとダグラスと私の三人の中での唯一の共通点だった。
 オリビアが「愛している」と口にすれば「あいしてる」とか「好き」って気持ちをたくさん答えた。そうすると彼女が喜ぶから。
 たくさん喜んで笑ってほしい。一緒に幸せになりたい。