「ねえ、お名前はあるの?」
「セドリックって名前あるけど、オリビアがくれるの?」と小首を傾げる。
「じゃあ、私が付けてもいい?」
「もちろん」と尻尾を振ってこたえると、彼女は嬉しそうに頭を撫でてくれた。好きだ。
「んー、フランはどう? フィデス王国で『勇気ある者』という意味よ」
「!」

 嬉しかった。胸がギュッとしてこの気持ちが言葉に出せないことがもどかしかった。

(竜のままだと抱き付くことは出来るけれど、抱きしめ返せない。爪も危ないし、翼が怪我しているから上手く歩けない。オリビアと同じになれば──)

 白くて優しい手、マシュマロみたいに柔らかい体、ぎゅっとしたら温かい体。オリビアを抱きしめたい。その思いの強さが竜から人の姿へと変えた。

「お、り、び、あ」
「まあ、あなたは人の姿になれるのね。それに喋れるようにもなって」
「ギューして」
「ふふっ、甘えん坊なのは変わらないのね」
「お、り、びあ」

 オリビアは人の姿になった私をそっと抱きしめてくれた。人の姿で抱きしめられて本能的に彼女が自分の生涯の番だと直感した。これはあとから知ったことだが、竜魔人族は番となる相手と出会った時に人の姿へとなる。
 もっともこの時の私は、人の子で言えば五、六歳ほどの子供の姿でオリビアよりもずっと幼かった。それでも本能で番と出会った時に、何をするのかはちゃんと理解していた。
 他の雄に奪われないように、証を刻むのだ。それが甘噛みをしたところに求婚印を残す。彼女の首元に甘嚙みしていると、くすぐったそうに笑っていた。
 そこで自分の気持ちを告白していない──紳士じゃないと気づき、生まれて初めてプロポーズをする。

「オ、リ、ビ、ア、すき、けっこ、ん、して」
「!」

 なんとも酷い告白だった。贈り物はおろか花束の一つもなく、彼女にどれだけ惚れているかとかいろいろな段階をすっ飛ばして告げたのだから。オリビアは驚いていたが、嬉しそうに頬を赤らめて「ありがとう。私もフランが大好きよ」と承諾を得た──と当時の自分はそう思っていた。
 もっともオリビアは、こんな子供に告白されて本気ではなかったのだろう。彼女は優しいから、子ども特有の気の迷い程度に受け取っていたはずだ。幼い私は番になることを受け入れてくれたと思って無邪気に喜んだ。