「オリビア。……今度こそ、貴女に寂しい思いも、ひもじい思いも、つらいこともさせません。だからどうか──」

 何を願うのだろう。
 優しくするから、だから──をしてほしい。
 出会う人全員がそう言って声をかけてくる。それはセドリック様も例外ではないのかもしれない。生唾を吞みながら言葉を待った。

(魔導具の依頼? それとも回復薬のレシピ?)
「これからは自分を大事にしてください」
(え……?)
「栄養のある食事に、上質な睡眠、それと休息。それからたくさん私に甘えてください」
「わ、私に何かしてほしい──とかではなくて、ですか」
「そうですね。オリビアの体調が万全になって、そして嫌じゃないのなら私に抱き付いたり、キスしてくれたり、デートなどしてくださいますか? ああ、食事の時間は一緒にとりたいのは今からでも、あとはオリビアが眠るまで傍にいるのも捨てがたい……」

 ブツブツと本音駄々洩れなのだが私を好きだという思いが前面に出ていて、聞いているこっちが恥ずかしい。そういえば夜になるとフランは難しそうな顔で「きゅう、きゅううう」と懸命に何か訴えている時があった。その時の雰囲気がそっくりだ。
 フランはオコジョの姿をした上位精霊の正体は、セドリック様の魂の一部だった。それなら色々と合点がいく。ただ──その場合、気になることがあった。

「あ、あの……フランが死んだ場合、セドリック様のお身体への影響はあるのですか?」

 思わずセドリック様の胸板に触れつつ、腕から腹部、足元へと視線を向ける。怪我を負ったような様子はない。思っていた以上に筋肉質なことに驚いた。
 というか竜魔王に対して不敬な態度ばかりだが、当の本人はこの上なく幸せそうだ。「オリビアが自分から触れて来るなんて」と口走ったのが聞こえてきた。

「セドリック様?」
「コホン、魂の一部そのものは私のところに戻ってきましたよ。オリビアの傍に居る役割が終わったからだと思っていたのですが──貴女の動揺からして違うようですね」
「私がこの国に向かう途中で、クリストファ殿下の怒りを買ってしまい……フランは殺されました」
「……そう、でしたか。あの男、次会ったら殺しておきますね」
「え、いえ! それはやめてください」