どうみても成人した男性にしか見えない。けれどセドリック様の言葉尻からこの方は、百年前から私との時間が止まっているようだ。百年前に私は幼いセドリック様と出会った。何があったのか思い出せないままだけれど。

「オリビアは竜魔人の求愛について覚えていますか?」
「すみません……」
「謝らないでください。竜魔人は生涯の伴侶を見つけると、自分の匂いが染みつくまで離さない習性があるのです。けれどそれが難しい場合、神殿で契約を結ぶことで繋がりを濃くします」

 セドリック様の話では匂い付けや契約を結ぶ──結婚することによって私の安全を確固たるものにしたいらしい。それも私が人族だからだ。多種多様な種族が居る中で、最弱の人族を守るためには陛下の庇護下にあるだけでは足りないという。
 それ以外にも何か急ぐ理由があるのかもしれない。たとえば()()()()()()()()()()()()──など、立場を持っているのなら王族の義務が発生するのも当然だ。

 エレジア国で私がクリストファ殿下や聖女エレノアの評価を上げるための駒として使われたように、ここでも同じ扱いを受ける可能性だってある。甘い囁きと都合のいい言葉を並べて信じ込ませる手口はどこも同じなのだろう。それでももしかしたら──セドリック様は違うかもしれない。言葉一つ一つに温かみがあり、私を気遣ってくれているのがわかる。だからこそ早めに確認してしまおう。
 淡い期待をもたないように。幻想はすぐに砕けてしまえばいい。

「あ、あの……セドリック様に、このようなことを尋ねるのは……不敬かもしれないのですが──」
「なんでも言ってください。貴女に遠慮されると悲しくて泣いてしまいそうです」

 グッと拳を握りしめ、口を何度か開閉しつつ言葉を紡ぎ出す。

「私は……生贄として召し上げられた……のではないですか?」

 空気が凍りつき、明らかに部屋の温度が下がった。
 セドリック様はニコニコと笑顔でいたが、その双眸は一瞬で鋭くなった。

「エレジア国では、そう言われてきたのですか?」
「は、はい……。叔父夫婦、クリストファ殿下、聖女エレノアの三人から聞いた話がどれも一致しないのです。その上、昨日サーシャさんから少し事情を伺って……まだ状況が整理できていないというか。何が本当で……嘘なのか、今の状況が夢なのかと思ってしまうほど混乱しているのです」

 セドリック様は私を優しく抱きしめ、温もりを実感させようと密着してくる。
 ドキリとしたけれど、不思議と嫌な感じはなかった。私が拒絶しなかったのを感じ取ったのかセドリック様は目を細めた。雰囲気も少し柔らかくなった。

「私は昔、兄──竜魔王の後を追ってフィデス王国に訪れたことがあります。今思えば無意識に番となる貴女を探していたのかもしれません。魔物の襲撃で怪我をした私を助けてくれたのがオリビア、貴女なのです」
「わたし……?」
「そして今も昔も貴女に惚れこんで求愛し続けているのです。オリビア、愛しています」
「あ、え……」

 この流れで告白されるとは思わなかったので、思考が停止した。頭が真っ白になって、返答に迷う私にセドリック様は言葉を続けた。

「少しずつで構いません、今の私を見て好きになって頂けないでしょうか」
「──っ」
「そしてこれは先走っていると思うかもしれませんが、いつか私の番になってほしい。私は本気です。あ、でももし王妃とか堅苦しい肩書が嫌なら、さっさと兄の石化を解いて竜魔王代理役を返上しますので」
「え、な」