鉄格子のある窓の外は澄み切った青空が広がっており、どこまで自由に見えた。
 檻のような屋敷で、寝る間もないほどの発注書が山のようになっている。エレジア国に保護されて今日で三年目。今抱えている発注書を終えれば、この屋敷から、いや叔父夫婦から離れて国を出ようと思っていた──いや、そういう約束だったはずだ。
 それが覆る。

「オリビア・クリフォード子爵令嬢。おめでとうございます。竜魔王の生贄に選ばれました!」

 名誉なことだと言わんばかりに張りのある声が屋敷内に轟いた。
 地獄が終わったと思えば、新たな地獄の釜が私を誘う。どこまで行っても終わらない永久牢獄。
 それが私の人生なのだろうか。

 竜魔王。
 生贄。
 どれも初耳だ。
 自室で内職をしていた私は何事かと自室を出た。この三年、食事は最低限しか出してもらえなかったのと、一日中部屋に軟禁状態だったため足腰の力が衰えているからか、ふらふらしながらも屋敷入口へと向かった。

 ふと廊下にある姿見に自分の姿が映った。ここ三年、自分の身なりに気を遣う暇もなく骨ばった体、寝不足で不健康そうな少女が自分だと思わず、一瞬固まってしまった。

 長い蜂蜜色の髪はぼさぼさで、アメジストの瞳は寝不足で目が充血している。服装も使用人たちの紺のドレスをアレンジして着こなしているが、継ぎ接ぎだらけでどう見ても子爵令嬢とは見えない。

(さすがにこのままじゃ駄目ね)

 手櫛で軽く髪を梳き少し整えたて、廊下を歩き出す。焼け石に水だったかもしれないが、気持ちの問題だ。
 屋敷内はざわついており、先ほどの声は屋敷の玄関口からだったと思い急ぐ。