ヒューレット王国の王太子である僕には婚約者がいる。

 彼女は努力家で、逆境にもめげず、自分よりも他者を優先してしまうような優しい女性だ。しかもただ、優しいだけではなく、敵とみなしたら立ち向かう勇ましい部分もある。

 それに加えて、銀糸の髪は月の光のように儚く輝き、澄んだアメジストのような瞳にはいつだって見惚れてしまう。

 僕は彼女に会って、初めて世界がこんなにも色づいていると知った。僕がみっともないほど嫉妬深いと知った。
 彼女の笑顔が見られるなら、どんなことだってすると思う。

 僕はラティを愛している。
 ラティじゃないと、意味がない。

 こんな激情を僕が抱くとは思ってもみなかった。
 でもそれが嫌じゃない。むしろ他の人と同じように生きているのだと実感できる。
 だから、もしも僕からラティを奪おうとするのなら、相手が誰であろうと容赦しない。

「フィルレス様。ただいま戻りました」
「シアンか。いったいアイツらはなにが目的だ?」

 エルビーナ皇女が戻ると情報が来て、すぐにシアンとグレイを帝国へ送りずっと調査をしてきた。一度は婚約破棄して戻ったのに、皇帝が命令してまで皇女を嫁がせたい理由があるはずだ。
 場合によっては戦争も辞さないが、民のことを考えると無闇なことはできない。