え!? さっきは確かに焦茶色の髪と瞳で……いや、顔の作りは一緒だったような……? いやいやいや、それどころじゃない!! これは非常にマズい事態なのでは!?

 王族は身元や家柄、人柄や思想までしっかりと調査された専属治癒士がついており、私たちのような一般の治癒士が御身に触れることはない。

 それは毒を仕込まれたり暗殺されるのを防ぐためだ。もし「診てくれ」と言われても、あらぬ疑いをかけられぬよう、私たちは専属治癒士を急いで呼んでくるしかない。
 過去に緊急事態とはいえその御身に触れ、罪に問われた治癒士がいたと聞いている。だからみんな王族には近づかなかった。

 でもこの状況でフィルレス殿下を置いて離れるわけにもいかない。ひとりのようだけど、すでに従者や護衛騎士が専属治癒士を呼びにいっているのかもしれない。 
 そう考えたけれど、それならどうして治癒室になど来たのか。症状からして、よほど切羽詰まってたのか。そうだとしても。

「はー、私の治癒士人生終わったかも……」

 せっかく見つけた居場所が、足元から崩れていくような感覚に襲われる。
 必ずなにか横槍が入る。積み上げて壊されるなら、最初から積み上げないのに。

 ひどく疲れたな……もし罪に問われたら国外追放してもらおう。そして違う場所でひっそりと生きていこう。