さらり、さらり……
 するり、するり……



 黒い大地と赤い空の狭間で、白い砂がレースのヴェールのように流されてゆく。

 ――ナーギニー、こっちへおいで……ナーギニー……

 やがて砂は人型を造り、『それ』は彼女に手招きした。

 ――シヴァ様……?

 彼女は広い砂漠の真ん中に居た。何も無い――いや、目の前の暗がりから現れたのは、荘厳なタージ=マハル。そして背後に砂の城。

 ――僕は、シヴァじゃない。君の名は? こっちへおいで……君……

 少女はその声に振り向いた。砂の城を覆う巨大な透明ドームの入口から、優しく呼びかけるスラリとした青年。白いターバンに闇色の髪を絡ませながら、柔らかみを帯びて微笑んでいた。

 ナーギニーは咄嗟に駆け出し、

 ――私の名前をお忘れですか? シヴァ様。私です、ナーギニーです。

 ――君はナーギニーじゃない。君は……

 あと数歩で手が届くという所で、刹那足元から生まれた風が、砂を巻き上げ視界を遮断した。やがて風は竜巻となり、ナーギニーをも巻き込み、墓廟よりも城よりも、天高い果てへと全てを連れ去ってゆく。

 ――助けて、シヴァ様……私は、貴方様を――!



 ――シヴァ様――!!