――ナーギニー……ナーギニー……。

 夢の向こう側へと流れ落ちる瞬間、蜂蜜のようなまどろみの中を、少女を探して漂う優しい声があった。

 ――ナーギニー、やっと見つけた。心配しないで、元気を出して。とにかく立ち上がって、最後の姿勢を……どうか諦めないで……きっと大丈夫……。

 それはシュリーのようにも青年のようにも思われた。空虚な心に反響(こだま)するその声に導かれ、ナーギニーはぐいと現実に引き戻されたようだった。夢なのか幻なのか……が、今はそんなことなどどうでも良いことだ。『最後まで諦めない』――震える瞼に力を込め見開く。傍らには降ろされた担架が横たわっていたが、それに促す警備員の手を制止し、少女はよろよろと立ち上がった。

 遠く真正面に満足そうな青年の微笑みが映った。こめかみに汗を光らせ、ナーギニーは右手の先を左腕に伸ばした。更に左の手先を右腕へ……口角の上げられた美しい笑顔で、シャニに向け腰を落とし、優雅な会釈を贈ってみせる。

 驚きを隠せず呆然と立ち尽くす人々の中には、最後まで良くやったと手を叩き出した者もいる。しかし彼女は肝心のシャニ自身が玉座から立ち上がり、ナーギニーへ向かって拍手を始めたことが確認出来るや否や、安心したようにその場にへたり込んでしまった。それから担架に乗せられて家族に付き添われた彼女は、治療の為に仮宿舎へと運ばれた。