「きゃっ」

 視界がぐるりと空を掻き、次には観客の山が弧を描いた。刹那焼けた砂が少女の頬を濡らす。周囲からは大きな驚きの声と、混乱した人々の動き出す足音が響き続けたが、彼女はそれも聞こえぬほど酷く動揺していた。十分でない食事と熱射の中の散策が、体内の泉を干上がらせていた。

「ナーギニー!!」

 幾度となく繰り返し聞こえる自分の名は、誰によって叫ばれているのだろうか。母親か父親か……それとも見知らぬ自分を知る者か。ナーギニーは焦燥と眩暈(めまい)により、指一本でさえも思い通りにならなかった。いつしか彼女の頬には一筋の涙が伝い、夕闇に染まった砂の上に落ち、小さな丸い紋様を刻みつけた。

 ――私は……どうしたら……? もう……何も、出来ない……――

 哀しみと口惜しさが入り混じるも、身体は一向に言うことを聞いてくれない。それでもようやく力を取り戻した指先が、触れる砂を集め握り締める。観客の慌てふためく様子が地鳴りとなって、彼女の耳に振動を送り続けたが、意識は徐々に遠のき始めていた。