【砂の城】インド未来幻想

 少女はそんな愛に溢れた霊廟(れいびょう)を遠くに望みながら、手に取った叙事詩『マハーバーラタ』のひとひら『シャクンタラー』を脳裏に浮かべた。仙人の美しき養女シャクンタラーと、狩りの最中に出逢ったドゥフシャンタ王。二人の数奇な運命と乗り越えた先に得た幸せな結末は、タージ=マハルに宿る愛の記憶と相まって、少女の心の奥底をくすぐった。(註3)

 けれどナーギニーは一度とて、それを自分と重ねることはなかった。(ラージャ)のような(はしばみ)色の肌を持ち、絹の(ころも)を身に(まと)う、大きな黒瑪瑙(オニキス)の瞳をした秀麗な男性と共に、タージ=マハルを見上げる日々が訪れたら――そのような大それた望みは決して生まれ出でることはない。

 彼女の繊細な白真珠の指先は、ただ心を温かく灯す為だけにページをめくり、色褪せて消えかかる挿絵の(しわ)を、愛おしそうに撫でるのみだった――。