「ああ、無事だったのね! ナーギニー。あたしゃまた、人ごみの中で窒息死でもしちまったかと思ったよ。しかし一体どうやって助かったんだい? ……と、そんなこと聞いている場合じゃなかったね。もうすぐお前の番だよ。さあさあ着替えよう」

 大会はこの騒動で一時中断していた。一旦は治まったものの、今度は当のナーギニーが消えてしまった為、再び大騒ぎとなったからである。母親は無傷で戻ってきた娘を強く抱き締めた後、大会の警備員である男にその旨を伝え、今度は舞踊のことを心配するように、早速更衣室の中へナーギニーを連れ込んだ。

 再開した大会は二十七番から三十一番まで、まるでナーギニーの前座のようにトントン拍子に進んでいく。観客もナーギニーを待つ為に其処に居るようなもので、踊る少女達には何の関心も示さず、時々ヤジさえも飛び交っていた。

「綺麗だ。お前は何て美しいんだろう。これでちゃんと踊ってくれさえすれば、優勝は間違いなしだよ。あと少しだね。さあ外へ出よう。頑張っておいで」

 ――頑張っておいで、わたしと家族の為に。家族が贅沢出来るように。

 母親は口ではともかく、心の中でそうほくそ笑んだ。