【砂の城】インド未来幻想

 祈りの時間が終わりを告げ、少女は小さな窓のある壁越しの寝台の上で外を眺めた。午前十時。これから父親が休憩に戻る正午まで、しばし彼女の時間が訪れる。母親は少女を美しく育てる為だけに精を出したので、屋外へ出ることも働くことも一切許さなかった。それでも古びた厚手の書物の中、描かれた美しい物語は退屈を忘れさせてくれる。そして木枠の隙間から砂を(いざな)硝子(ガラス)の世界には、どれだけ目を向けても飽きることのない悠久の『歴史』が(そび)え立っていた。

 ムガール帝国第三代皇帝、全盛期を誇ったアクバル大帝の孫、第五代皇帝シャー・ジャハーンの『愛の結晶』――タージ=マハル。

 吹きすさぶ風が舞い上げる砂塵の中に、その憂愁たる輪郭が映る。崩壊を続ける建造物の中で、このタージ=マハルだけは例外的に昔と姿を変えることなく、天を仰ぐが如く屹立(きつりつ)していた。それほどジャハーン帝の愛妃アルジュマンド・バーヌー・ベーガム(後のムムターズ・マハル)に対する想いは、深く強いものであったのか――白大理石の大円屋根(ドーム)の鮮やかさは(いま)だに健在である。