「ごめんなさい。わたしはシャニ様に嫁ぐ為に出場したんじゃないの。今まで練習してきた踊りの成果を知りたかっただけ。あなたがわたしの舞を褒めてくれて、あれだけの拍手を貰って……もう本望よ。わたしには養わなければならない家族もいないし、どうか心配しないでちょうだい。だから、ね? 次はあなたが頑張って! わたしはあなたが優勝することを心から願っているのよ」

「シュリー……」

 力のある激励がナーギニーの凍った何かを溶かしたようだった。込み上げた涙が溢れ出し、頬を伝っては落ちてゆく。透明な真珠のようなそれは、全てシュリーの温かな指先で受け止められたが、と共に(すく)われたのは、ナーギニーの心に堆積する未来への不安と恐怖だった。

 シュリーは颯爽と立ち上がり、呆然と見上げるナーギニーに向かって立ちはだかった。右腕をピンと顔前に伸ばし、その手を大きく広げてみせた。

「さぁ、涙で化粧も落ちたことだし、戻って用意をしていらっしゃい! わたしに……わたし以上の踊りを見せて!!」