湯浴(ゆあ)みの後、少女は軽い朝食を取った。二枚のチャパティに、質素な野菜のカリーとスパイスの効いたミルクティ(チャイ)。全て母親のお手製だ。

 もはや作物の育くまれる土壌を失った大地だが、少数の資産家を地主とするカプセル式の農園に、農民(シュードラ)が従事することによって、何とか食料の自給は保たれている。高値であることは否めないが、地中深くに眠る水脈から漂う、(かす)かな水の()を求め芽吹いた木々の、干からびた果実など食べられたものではない。

 食後は片付けもさせてもらえぬまま促され、部屋の片隅で一時間にも及ぶ神への祈りを捧げる。印刷技術さえ捨て去られた今、家宝とされる宗教画は既に何十もの年を過ぎ去っていた。(かす)れぼやけた勇壮なシヴァ神の前に坐し、椀に入った水を(すく)っては神へと祈る。

 何を? ――何物でもないのだ。ナーギニーには明らかにはっきりとした意志が見えない。この生活を続けたいのか。新しい未来を望んでいるのか。外界への好奇心も恐怖も全て混ざり合い一色に染まって、彼女の感情はささやかな希望すら示すことなど有り得なかった。