大理石の階段が導く先には、冷たい砂の地面が待っている筈だった。けれどナーギニーの勢いは止まらず、その身は長い影に包み込まれ受け止められた。温かく(まと)わりつくしなやかな腕。視線の先で、碧いサリーを散りばめる銀糸の刺繍が一瞬煌めいた。

「良かった……! ごめんなさい、ナーギニー……」

 聞こえた声は明らかにシュリーで、心に響いたのは安堵と謝罪と……そして愛情の込められた涙声だった。

「シュリー、私こそ……」

 そう言ったきりナーギニーも泣き出してしまう。二人はタージの作り出す月影の下、探し求めたお互いの姿を落ちる涙の温かさで確かめた。

「わたし、あなたが倒れそうになった時、急には足を止められなくて、ずっと先まで行ってしまったの! その勢いで転んでしまって……少し気を失ってしまったみたい。気付いて戻った時にはあなたはもう見えなくて……宿舎に戻ってしまったんじゃないかって一度来た道を帰ったのよ。でもベッドには居なかったから……良かったわ、行き違ったりしないで! ごめんなさいねっ、心細かったでしょ?」

 やっとナーギニーを解放して、シュリーは矢継ぎ早に此処までの経緯を説明した。サリーの裾で少女の涙を(ぬぐ)う姿はまるで母親のようだ。ナーギニーはその行為に驚きを隠せなかったが、自分の為に泣いてくれたシュリーを心から有難く思った。