それから十七年の歳月が流れ、母親が望んだ通り少女は美しく育った。

 崩壊寸前の家を捨て、新しくもいささか頼りのない煉瓦の家は、快適とは程遠い様相に思えたが、住居さえも持てず洞穴に巣食う不可触民(ダリット)に比べれば、民衆の暮らしは何倍も恵まれている。その中でも彼女は特別な生活を巡らし、周囲からの羨望の的となっていた。(註2)

 十五年前より変化を帯びることなく続けられてきた彼女の一日は、貴重な水をたっぷり使い、美しい漆黒の髪と白い肌を清めることから始まる。

 少女の名は女性の中でも素晴らしく、名付けることすら気の引けてしまうほど細やかで麗しくあったが、黒曜石よりも黒く、サリーのように長い、編めばどんなに妖しい蛇でも敵わない髪の所為(せい)で、いつしか美蛇神(ナーギニー)と呼ばれ、そして彼女の本来の名は誰がそうする訳でもなく、英国風の洋館で占いを続ける名付け親のバラモンでさえも忘れ、魔術か呪いのように忘れ去られた。