薄紫色の夜空は、(かすみ)が掛かったように蒼白い光で月を包み、(そら)という天蓋の真中に掲げ、其処から生まれる涼しい空気を地上に降り注いでいた。

 朧月夜のタージ=マハル。

 (はかな)げな月光と力強い松明(たいまつ)が、青と赤の色彩を交じわせ、墓廟に紫の膜を(まと)わせている。その幽玄で壮美な(さま)は、仮宿舎を出てすぐでさえも、遠く見上げた視界を独占するかのように悠然と浮かび上がっていた。

「ああ……やっぱり! なんて美しいのかしら……さぁ、ナーギニー行きましょう!」

 シュリーは感嘆の声を上げ、反面ナーギニーは声を失くしてその光景に魅せられていた。両手を当てた胸元の、奥底の心臓は脈打つことも忘れてしまいそうだ。そんな彼女の小鳥みたいな柔らかい手首を掴み、シュリーは嬉々として走り出した。

 もう夜は相当に更けている。目指す先は炎が点在して明るいが、それまではまるで何ものも存在しない闇夜の砂漠に等しかった。シュリーの勢いにどうにかついていこうと少女は必死に後を追いかけた。が、慣れない暗がりを砂にもつれて走るというのは、こうも難儀なものなのかと、まさしく身を持って知ることとなった。