「あなたに見せてあげたいのよ。普段は夜に出歩くなんて危なくて出来やしないわ。でも今夜なら……わたしも小さい頃に見たきりなの。ちょっとだけでいいから……お願い!」

 シュリーの悪戯な瞳はこれだったのだ。ナーギニーは気付かされて唖然とした表情を見せた。数秒後やっと自分を取り戻し、先程と同じく(かぶり)を振って「無理だ」ということを必死に伝えた。

「ちょっとぉ、だあれ!? うるさくて眠れないわ。お喋りなら外でやって!」

 シュリーのおねだりにとうとう向かいの寝台からクレームが投げられて、ナーギニーはその声に怯え、シュリーの腕にしがみついた。「ほらほら、外に行きなさいって言われているわ」――見上げた先のシュリーが意地悪そうに目配せをし、枕元の紅いサリーをにこやかに手渡す。困り顔のまま強引に受け取らされたナーギニーは、鮮やかな碧のサリーに着替え出したシュリーに続けて、仕方なく自分もそれを身に巻き付けた。

 既に周りの少女達は、安らかな眠りとうたかたの夢に包まれていた。その間を二人の少女は静かに足早に過ぎ去った。

 しかしナーギニーは(のち)に知ることになるだろう。

 明晩、大会の後の舞妓(デーヴァダーシー)として踊る際、月夜のタージが望めるにも(かか)わらず、彼女がこの日に限って()いた訳を――。