「ねぇ……あなた、舞台は明日でしょ? わたしもなの。開始時刻は何時?」

 シュリーはナーギニーの寝台に並んで腰掛け問いかけた。月に照らされた彼女の横顔は、ナーギニーのそれより僅かにふっくらとし、弓なりの鼻筋はまるで三日月のように美しかった。

「……五、時……半」

 その質問に何とか答えてはみたものの、と共に消えていた震えが呼び戻されていた。明日……夜が明ければ、逃れられない歯車が動き出してしまう。

「随分遅い時間なのね。でも夕暮れ時は人をより美しく見せるし、涼しいから踊りやすいわ。わたしなんてきっと炎天下の真っ最中よ。汗でお化粧が崩れちゃうわ」

 シュリーは舌の先を軽く出しておどけてみせた。ナーギニーに明日への不安を甦らせたのは彼女であるのに、その仕草には憎めないところがあり、同時に心の安らぎを与えたのも彼女であった。