――けれどそんなこと、本当にあるのだろうか?

 ナーギニーはシュリーの話した全てを信じることが出来なかった。自分の知らない誰かが自分を見つめ、それが()の一族にまで知れ渡る――少女は考えを巡らせることもなく、すぐさま否定をした。ただ生きているだけの何も出来ない人間に、誰が注目するというのだろう。何も出来ない――いや、したことがない、させてもらったことがない、というのが実のところだが。

「あ……」

 頭に浮かんだ反論と、言われたことを「気にしていない」との答えを、早く伝えなければという想いだけが先走って、唇から言葉にならない声が零れていた。反省の面差しのまま目の前の少女へ顔を戻したシュリーは、困ったように俯くナーギニーの、切なく(かぶり)を振り続ける様子に気持ちを改めた。

「ありがとう、ナーギニー。あなたは優しいのね」

 思いがけない返しの言葉に、咄嗟に視線を上げるナーギニー。(まばゆ)い光を集めたシュリーの微笑みは、甘くとろける蜜菓子(グラムジャムーン)みたいだと少女は思った。それを喉へ通した時に味わった面映(おもは)ゆい何かが胸の内に広がっていく。