「……な……ぜ」

 ――何故、私のことを知っているの?

 本当はそう問いたかった。が、見知らぬ人間と話したことのない彼女には上手く言葉が続かない。それでも意味を悟ったシュリーは、握り締めた手を放しニコリと笑んだ。

「ガネーシャ村のナーギニーを知らない人なんていないわ。男性はみんなあなたの(とりこ)なのよ。窓の外を眺めるあなたを一目見る為に、はるばる遠くからやってくる人もいるのだと聞いたわ。気付いたことないかしら? 噂には聞いていたけれど、あなたを見てすぐに分かったわ。やっぱり他の女性とは違うもの。きっとクルーラローチャナ一族にも、あなたの評判は届いているに違いないわ! あっ……」

 シュリーは興奮気味に理由を語ったが、しかし刹那に勢いを(しぼ)ませた。

「……ごめんなさい。緊張させるつもりなんてなかったのよ」

 黒檀の瞳を覆う長い(まつげ)が、雨の如く降り注ぐ。ナーギニーにプレッシャーを与えてしまったこと。それを深く詫びている気持ちは、心の機微に幾度も触れたことのないナーギニーでさえも気付けていた。