祭りは華やかに始まり、あらゆる方位からシタール、ヴィーナ、タブラ、シャハナイといったインド独特の音色が弾き出され、猿や熊、コブラなどの芸や技も各処で披露されていた。舞踊大会とは異なる小さな舞台では妖艶な女が舞い、貧弱ながらも派手派手しく(しつら)えた屋台からは、香辛料の強烈な香りと古臭い油の匂いが漂ってくる。神輿を先頭に長くくねる巡礼の中には、シヴァ神に自身を見立て、長い髪を頭上で結い、蒼い灰で身を包み、毛皮と数珠を束ねた苦行者の淫らな裸体が幾つも見受けられた。

 ナーギニーにとっては、直視出来る者など何一つとして無かった。貧しさ、汚らわしさ、いかがわしさ……目を背けずにはいられぬ砂絵の真中で、唯一美しいと感じられる象徴――タージ=マハル。その基壇上からちょうど良く眺望出来る眼下に、熱く焼ける砂を綺麗に(なら)した大会専用の舞台が設置され、周囲には今か今かと待ち焦がれる観衆の壁が出来上がっていた。

「そろそろのようね……さ、行きましょ、ナーギニー」

 開催間近と悟った母親の手は、肩から流れるサリーにすがる柔らかな指先を(ほど)き鷲掴みにし、拒む声すらも出すことの出来ない少女の身体を引き寄せた。