シャニのたった一声で、人々は神輿(みこし)を担ぎ、音楽を奏で、行列を連ね、露店を再開した。或る者は儀式の支度に取りかかり、また別の者は舞踊大会の準備を始める。彼らは先程の沈黙など忘れてしまったように自身の仕事に勤しみ出した。まるで全てが決められていたかの如くクルクルと展開していく(さま)は、目まぐるしく動き回る人ごみの中、母親の腕にひっしとしがみついたナーギニーだけを独り取り残し、順応させる余裕さえも与えなかった。

 一方シャニは大勢の家臣や媚びへつらう群衆に囲まれながら、今度はお付きの少年ではなく、チャドルと呼ばれる黒衣を身に着けた正妻らしき女性と共に馬を巡らせた。彼の周囲には必ず(おも)だった世話役が(はべ)り護衛する――時には妻、時には妾、時には……? シャニは絶対者であり、神に次ぐ者であり、どのような願いも望みも有無を言わせず強要する。が、そうした行為に逆らうことの出来ない訳は、シャニの権力というよりも、金力によるものだろう。その財産は(いにしえ)の王達を数十重ねても及ばない。