けれどこの場が少女達のお喋りや笑い声で溢れ、盛り上がることは一向になかった。満足そうな王以外、全員が粛々と、そして黙々と食事を口にするばかりだ。まるで既に選ばれた妾妃(しょうひ)はナーギニーなのだと知っているかのように。が、当のナーギニーはと言えば、あの仕立てられた紺色のサリーを身に(まと)い、あたかもからくり人形の如く機械的に口元へ料理を運んでは、味わえているのかも分からない無表情で、ひたすらそれを喉へ通していた。

「大変美味であった。皆の胃袋も満たされたであろう。そろそろ私の心も満たしてもらおうか」

 全ての食器が(から)となり、インドのあらゆるデザートが再びテーブルを埋め尽くした頃、温かなミルクティー(チャイ)で喉を潤したシャニは、全員を視界に取り込みながらそう告げた。

「今期の我が姫を発表する」

 王は玉座からすっくと立ち上がり、テーブルの向こうの中央へ躍り出た。今一度全員を吟味するように、小太りな身体を重そうに一回りさせた。

「……ナーギニー、こちらへ」

 東南の端に腰掛けたナーギニーへ声を掛け、また彼女も無言のまま、それに応じ前方へ進んだ。辺りから驚きや失意の溜息は有り得ず、ただ静謐(せいひつ)な空間に小さな足音だけが響く。