その夜の両宮は騒がしかった。

 怒りにまみれたシャニが、侵入者である「偽の侍女(シュリー)」の捕獲を、そして明日行なわれる寵姫(ちょうき)選良披露への不安から、イシャーナの捜索を開始したからだ。シュリーはその後イシャーナとの再会を果たし街の雑踏へ、イシャーナはあのまま地下に身を隠し、お陰で手掛かりすら見つからないシャニの焦燥は、ナーギニーを安らかな眠りに置き去りにした。

 それでも翌日の昼食会を兼ねたお披露目の儀式は滞りなく進められた。今までも沢山のご馳走が並んだ(うたげ)であるが、それらを優に超える素晴らしい匂いが室内を漂う。黒宮最上階では手狭である為、この会食は白宮の大広間で催された。中央奥へ(しつら)えられた王の玉座を中心に、コの字型に並べられた長細いテーブルには、王妃・候補者の少女達、そして見守るように家臣や侍女達が遠巻きに囲んだ。

 広間を巡る円柱の向こうには、東西に一つずつ大きなタンドール窯が置かれている。スパイスとヨーグルトの良く効いたタンドーリ・チキンやシシカバブ、ふっくらと焼き上げられたナンが次々と取り出されては供される。テーブルにはマトンやチキン、白身魚や海老のカリーが所狭しと並べられ、それぞれが競うように豊かな香りを辺りに振り撒いた。クリームをたっぷり掛けたチーズ(パニール)のオーブン焼き、香菜(コリアンダー)を散りばめた彩りの美しい新鮮なサラダ、また南インドの少女達に合わせたかのように、具沢山の炊き込みご飯(ビリヤニ)やサフラン・ライス、米や豆のクレープに蒸したポテト(アル)を包み込んだマサラ・ドーサなど、珍しい料理も皆の目と舌を楽しませた。