■かつて(読者様にとっては現代の)タージ=マハル■





 タージ=マハル――。

 象嵌(ぞうがん)と呼ばれる精密な手法により、数多(あまた)の宝石を大理石に封じ込めた、あたかも白亜の宮殿と見紛(みまご)う荘厳な妃の墓廟。

 この世界的遺産は一六五三年、ムガール帝国第五代皇帝シャー・ジャハーンの、愛妃ムムターズ・マハルに注がれた大いなる想いから完成された。背後には今は涸れ朽ちたヤムナ河と、殆ど姿を残さないアグラ城を伴い、砂の海と化したなだらかな大地に悠然と立ち(そび)えている。以前は左右対称に赤砂岩のモスク(マスジド)迎賓館(ミフマーン・カーナー)、前方にはタージ全体を映す噴水に、二十二年という建築の歳月を表す大楼門を(たずさ)えていたが、永い砂の侵略によって影さえも失われてしまった。が、墓廟本体(マウソレウム)はこのインド=イスラム建築が最高傑作であることを誇るが如く、風化をものともせずにいる。四方にそそり立つ四本の尖塔(ミナレット)と玉葱型をした大小五つのドームは、まるで最後の炎を灯した真白い蝋燭のようだ。