「私は良いのだっ、とにかくナーギニーを……! いや、貴様……侍女ではないな!? 何者だっ!!」

 両腕を抱え込まれ、既に脱出口へと導かれたシャニの(おもて)が、侍女を捉えようと足掻(あが)きながら振り返った。が、紫色のサリーがひとひら揺らめいて、その姿は王の部屋へと消えてしまった。

「ナーギニー? ナーギニー! 良かった……無事だったのね!!」

 シャニを(あざむ)いた侍女姿のシュリーは、煙で覆い尽くされようとする部屋の真中、椅子に腰掛けたままのナーギニーをすぐに見つけた。喜びを口にしながら駆け寄ったが、当の彼女はそちらへ目を向けることもなく、ただ無言で佇んでいた。

「……一足、遅かったのね……」

 伸ばした両手を愕然と垂らし、消沈とばかり首を曲げ立ち尽くしてしまう。

「いえ……ともかく逃げましょう、ナーギニー。この煙はわたしの細工だけれど、早く出ないと追手が来るわ」

 何とか自分の気持ちと少女の身を持ち上げ、シュリーはナーギニーの手を引きながら煙る回廊を走り抜けた。階段を降り、正面出口を目指すべく身体を向けたが、その矢先横からの声に足を止められた。

「ナーギニー……? 君は一体――」

 階上からの噴煙を見つけ駆けつけたのだろう、振り向けば焦燥を抱えたイシャーナが立っていた。