「ナーギニー?」

 夕暮れ前には雨は止んでいた。照らされた瑞々しい風景が、朱色に染まって闇に沈む。バルコニーの手すりに並んだ透明な水玉は、次第にマンダリン・ガーネットの輝きを帯び、やがてブルー・スター・サファイアの碧い色と溶け合い、涙のように落ちていった。

 夕食後現れたシュリーは、佇む少女を不思議そうに見つめた。その表情が溢れんばかりにニコニコと微笑んでいたからだ。首を(かし)げながらゆっくりと近付いたシュリーに、ナーギニーは後ろに回していた両手を勢い良く差し伸べた。

「あのっ……シュリー、これ……使ってはもらえないかしら……?」

 目の前に現れた封筒に、瞳を見開き丸くするシュリー。驚きつつも同じく両手で受け取り、中身を取り出して「あっ!」と声を上げた。

「ナーギニーったら……いつの間に完成させたの!? それも素晴らしい仕上がりだわ……でも、使ってって……?」

「まだまだ未熟で恥ずかしいけれど……初めての作品は、シュリーに使ってほしいと思って……」

 はにかみ俯いたナーギニーの口元は、それでも嬉しそうに弧を描いていた。柔らかみのある白い綿布は吸水性も良く、ハンカチーフとして使うには最適だ。しかし上質な絹糸をふんだんに用いた繊細な刺繍絵は、(がく)に入れて壁に飾っても十分な程に芸術的であった。