目の前の熟した実を採り終えたナーギニーは、それより上の群れに手を伸ばした。が、少しばかり身丈が足りない。諦めて他の枝を探そうと背伸びを戻したところ、その枝が生き物のように自分の(もと)へ垂れてきた。降りてきた右上に視線を上げれば、自分より背の高い少女が「採りなさい」とばかりに枝を掴んでくれていた。

「……あっ、ありがとうございます!」

 慌てて目の前の果実を幾つか摘み採り、お礼を言って深くお辞儀をする。少女は無言で微笑み枝を放した。それから別の木を探しに(きびす)を返してしまったが、初めて親切を受けたナーギニーは、余りの驚きにしばし時を止めてしまった。

 けれど手元の籠が一杯になり、与えられた布の袋へ移す際も、それを従者が用意した馬の荷台に乗せる時も、傍にいた少女の誰かしらが必ず笑顔で手伝いをしてくれたのだ。ナーギニーはその都度呆然としてしまったが、自分を取り戻しては礼を伝え、その度ににこやかな頷きが返された。

 昨日のパレードを笑顔で見送ってくれた群衆といい、今回の少女達といい……明らかな「変化」が訪れていた。この変貌は一体何に依るものなのか? が、原因はともかく、自分は受け入れられたのだという心からの安堵が、少女の胸を撫で下ろした。ナーギニーもその厚意に応えようと、自らも率先して他の少女の手伝いをした。