午前は北西の果樹園に(おもむ)き、熟した果実を摘み採るのだという。黒宮の西庭園に集められた少女達は、シャニを中心に談笑を楽しみつつ広大な林へ歩いていった。

 目的の木々の前で一人一人に手提げ籠が渡された。枝から垂れた大きな葉は、良く見れば葉軸から並んで生えた細長い葉の集まりで、その葉群れの向こうに小さな丸い実が鈴なりになっている。まるでナーギニーのハーフサリーを飾る、ペチコートに縫いつけられた淡い翠の硝子(ガラス)玉のよう……それはアムラと呼ばれる万能な果実であった。(註1)

 伝統医学であるアーユルヴェーダにおいても、主となる三つの果実の一つであるが、ナーギニーはその存在を知ってはいても、色のない挿絵でしか見たことがなかった。薄っすらと透けたような果皮の様子は、まさしく宝玉のようだ。ジャムやピクルスに加工され、菓子などにも用いられる実であるが、葉も幹も根も薬効を持つ優れた樹木であった。

「さぁ、お好きなだけ摘みなさい。採った実は後ほど侍女に調理させよう。残った分で薬を作ったら、故郷で待つ家族に土産にすると良い」

 少女達は歓喜の声を上げ、蜘蛛の子を散らすように木洩れ日の間を走り抜けていった。ナーギニーも吊られるように奥の木へ向かう。どの枝にも採り切れないほどの実が膨らんでいて、その重さでしなってしまったようにも見えた。もいだ実は張りがあり、中身はとても豊潤だった。